
あなたは自分に話し掛けることがあるだろうか。
専門家によると、多くの人は認めたがらないかもしれないが、声に出して自分に語りかけている人は意外に多い。心理学者は自分への語りかけを「セルフトーク(独り言)」と呼び、これをどのように発するかで気分も行動も大きく変わってくると指摘する。
専門家によると、大半の人は自分で自分に話しているが、中には声に出して話している人や、他の人より頻繁につぶやいている人もいる。筆者が回りの人に聞いてみたところ、彼らは地下室やパーティションで区切られた職場の席、トイレで独り言を発していた。ある女性は自分の声がよく聞こえるように車のラジオを消していた。
人は自分にコメントや助言、注意事項を伝えたいときに独り言を発する。専門家はこれを思考の一部と見なしている。人は独り言によって自分自身と会話する。
私の父はどこにいてもほとんど自分に語りかけている。夕食時も例外ではない。自分が言わなければならないことに、他の誰よりも関心があるらしい。父は私たち3人の子供に、何か良いことをしたときには自分で自分を褒めるよう教えてくれた。
独り言は無意識のうちに出てくることもあるが、自分を勇気づけるために意図的に発する場合もある。ギリシャのテッサリア大学で独り言とスポーツ成績の心理学を研究しているアントニス・ハチジョジアディス准教授は「人は自分で自分に語りかけることでやる気を出したり、自分を行動へと導いたり、自分の行動を評価したりする」と言う。
気合を入れてやる気を起こす独り言がある。それは例えば「頑張れ」「さあ行こう」「君ならできるよ」といった言葉だ。一方、教えるような口調の独り言を発すれば特定の課題に向かって一歩ずつ進むことができる。例えば運転しているときに、次の信号で右に曲がれと自分に命令すればその通りに動く。ハチジョジアディス博士は「簡単そうに聞こえるかもしれないが、自分に命令すれば正しい反応を得られる」と説明する。
新しいスポーツや仕事に挑戦するときには教えるような口調の独り言が有効だ。例えば水泳選手は自由形の試合前に肘を高く上げるよう自分に再確認させることができる。スピーチの前には自分に「ゆっくり話そう」「聴衆と目を合わせよう」と言い聞かせるのもいい。
独り言は短く、明確で、しかも終始一貫していることが重要だ。ハチジョジアディス博士は「1つの独り言を継続して、それが無意識のうちに出てくるようになるまで訓練する必要がある」と語る。
自分への語りかけ方によって効果は変わってくる。専門誌「人格・社会心理学ジャーナル」の2月号に掲載された研究リポートによると、自分を別人のように扱い、名前や二人称(You)で語りかけた人は、一人称(I)を使った人よりも緊張する場面でより良い成績を収めた。
ミシガン大学の研究チームは調査対象者に、理想の仕事をする上での自分の適性について審査員団の前でスピーチするよう伝えることで、彼らが緊張を感じるように仕向けた。準備のために5分間を与えたが、メモの使用は禁じた。
調査対象者の半分には、一人称を使って不安に対処するよう(例えば「私はなぜ緊張しているのか」)指示し、もう半分には名前や二人称で自分に語りかけるよう(例えば「あなたはなぜ緊張しているのか」)指示した。そしてスピーチの直後にどの程度の恥ずかしさがあったか、その後にどの程度反省したかを評価するよう求めた。
結果は明白だった。名前や二人称を使って独り言を発した人は、一人称を使った人ほど恥ずかしさを感じず、反省することもなかった。しかも、審査員団は二人称を使った人たちの方が落ち着いていて説得力があり、自信に満ちていたと判断した。
ミシガン大学の自制心・感情研究所のディレクターで心理学の准教授でもあるイーサン・クロス氏は、人は自分を別人扱いすると「自分を客観的に見つめ、有益なフィードバックを得ることができる」と語る。
化学品の卸売会社で最高経営責任者(CEO)を務めるドン・イングラハムさん(77)は、70年以上前から自分に語りかけている。兄たちとは年齢がずっと離れていたため、子供の頃はひとりぼっちだった。そのため、ボビー・パーマー、ボビー・エンジン、エインスリー・オーツという想像上の人物と友達になり、彼らと普通に会話を交わしていた。
大人になってからは、何かを成し遂げるたびに自分を褒めている。テキサス州の牧場にある石畳の中庭で、流し台の下に置く平らな土台を築いたときもそうだった。自分に「よくやった」と声を掛け、「君は時間をかけてそれを直した」と評価した。
時には自分をしかりつけることもある。イングラハムさんによると、それは自制心の声だという。今年の冬に氷雨を伴う暴風が通り過ぎた後に木の枝を掃除していると、とがった枝がたまたま腕に突き刺さった。そのときには「"ばか者"とどなりつけた後に汚い言葉をいくつか吐いた」という。
必ずしも前向きな言葉が前向きな作用を及ぼすとは限らない。後ろ向きの言葉が前向きな効果を持つ場合もある。自分に「こんな就職の面接は朝飯前だ」と言い聞かせれば、それに合格しようとする気力が生まれないかもしれない。逆に「この間の面接で落とされたばかりじゃないか。もっと集中しなくては」と語りかければ、意欲が出てきて結果的に成功するかもしれない。
批判的な独り言では、どうして否定的になっているのかを確認した上で、状況を改善することに集中する。「私はあのプレゼンで失敗した」ではなく、「あなたは最善の努力を尽くさなかった。もっと熱心に頑張らないと」と話しかける。
カリフォルニア州サンタバーバラ在住の代替医療の施術者、キャシー・グルーバーさん(44)は、かつての恋人が電話すると言ったきり電話してくれなかったときに、彼に伝えたいことを自分自身に語りながら大泣きしたことがあった。
それをきっかけに自分に前向きに語りかけることを学んだ。今では肯定的な言葉を唱えることが日課となっている。それによって深刻な病を持つ人たちを適切に対応するよう自分を導き、空中ブランコのように危険な処置を日々こなしている。「自分への語りかけは健全なことだと思う」と彼女は言う。「携帯電話を掲げて回りの人には電話をしていると思わせておき、心の中にたまったものを全て吐き出すのだ」
By ELIZABETH BERNSTEIN