
“男社会”のイメージが強い全国の都道府県警が今、優秀な女性を採用し、さらに、結婚・出産を経ても警察官としての仕事を続けてもらうために試行錯誤を続けている。そんな中、平成32年までに全警察官の10%を女性警察官にすることを目指す京都府警が、次々と新施策を打ち出している。今春には、職場でのセクハラ対策のため、女性警察官たちが実体験に基づいて編み出したマニュアル集を作成した。数々の修羅場をくぐり抜けてきた警察官が伝授する“必殺”のセクハラ対策マニュアルは、その名も「華麗なるおとこわり集」。一般企業でも十分参考になりそうだ。
■「USJ行かへん?」
「おことわり集」で紹介されている断り方は、「やんわり」「それとなく」「はっきり」「ばっさり」の4段階で、順に断り方がきつくなる。
いずれも「実戦」で役に立つよう、具体的な場面やセリフを想定して作られているのが特徴で、例えば「お誘い編」は、こんなシーンを想定している。
「2人でUSJ行かへん?」
《先輩の男性警察官からの誘い。相手は既婚者だ。応じると誤解を招きかねないし、はっきり言って迷惑。だけど、相手は先輩だし…》
そんなときは、まずは「やんわりと」2人で行くことを回避する手を打つ。
「いいですね~。○○さんと××さんにも声かけてみますね」
《相手はそれでも「2人で」と誘ってきた。思惑通りにはいかなかったみたいだ》
今度はもう少し踏み込み、言外に「ありえない」ということを匂わせながら、行きたくないことを伝える。
「えっ、まさか2人きりで行くわけちゃいますよね?」
それでも通じないこともあるかもしれない。
《これ以上曖昧な回答をすると、関係が悪くなりかねず、仕事に支障が生じる可能性もある。それでもはっきり断ることには抵抗が…》
そんなときは、先輩の名前を使う。
「既婚者とのデートは絶対ダメって△△さん(女性の上司・教官)に言われてるんで」
相手が既婚者であるという現実を突きつけ、自分の意志ではなく上司や先輩からの「指示」として断る。
それでもまだ諦めない、“粘り強い”相手だったら「ばっさり」斬るしかない-。
「いやです」
■実体験が生んだ必殺技
「おことわり集」を作成したプロジェクトチームの29人は、20~50代の女性警察官や庶務業務などを担当する一般職員で、未婚者、既婚者、育児経験者と幅広い。
盛り込んだ内容は、いずれも男社会のイメージが色濃く残る警察組織で、女性として試行錯誤した経験から生まれた「必殺技」だ。だからこそ、身近で、一般社会でもありがちな事例に富んでいる。
例えば、「余計なお世話編」では、「まだ結婚しないの?」というしつこい問いかけを受け流す方法も紹介している。
警察に限らず、一般企業や飲み会でもよくみられる“素朴な質問”かもしれないが、受け取り方によっては立派なセクハラだ。
さて、この手の質問にどう対応するのか。まずはここでもやんわりと。
「そうですねえ。どうしよっかな~」
それでも、酔っぱらった勢いも手伝って、さらに突っ込んでくる人もいるかもしれない。そうなれば、それとなく会話の矛先を変えてみる。
「そんなに結婚勧めるなんて、結婚生活幸せなんですねえ」
自らの家庭生活を省みて、一瞬ひるむ男性は少なくないだろう。それでもダメならはっきり。
「自分で決めます」
最後は、はっきりこう言おう。
「余計なお世話です」
■職場内で公開
この「おことわり集」には、「お誘い編」のほか「メール編」「不適切発言編」などの約10パターンが用意されている。一般公開はしていないが、府警内のイントラネットで、府警の警察官や職員なら男性でも見ることができるようになっている。
どこかで見覚えのあるフレーズを返されたら、それは「お断り」のサイン。頭の片隅に想定問答を残しておいてもらえれば、セクハラやパワハラの抑止効果も期待されるというわけだ。
被害の拡大防止という面では、初期段階でうまく対応することが大切。これは、犯罪の未然防止でも同じだ。
もちろん、京都府警が突出してセクハラ事案が多いというわけではない。警察に限らず、多かれ少なかれ、同様の課題を抱えている職場は少なくないはずだ。
■生かせ、女性視点
「平成32年までに全警察官の10%を女性に」という具体的な目標を掲げた京都府警。女性の積極採用・登用を進めており、今春には初の女性所属長も誕生した。
3月には、女性の力を活用するための計画案を策定し、育児休暇を取得した女性警察官が復帰しやすいよう「育休復帰ポスト」を新設したほか、育児休暇を取得した女性警察官の昇級試験の受験要件を緩和することも決めた。
4月からは、職場内イントラネットを活用した情報共有サイト「WOMEN’S EYE」の運用を開始。その名の通り、女性警察官の視点を盛り込んだサイトで、子育てに関する情報や育児のための休暇制度の紹介などを掲載している。
府警が職場に女性の視点を反映させるため、女性29人のプロジェクトチームを発足させたのは、25年10月。情報共有サイトの運営や、「おことわり集」編纂(へんさん)もここから始まった。
全警察官の10%を女性にする32年まであと6年。組織を挙げた取り組みが続いているが、女性の積極登用は、府警だけでなく、日本の社会全体の大きな課題のはずだ。