
3月8日に南シナ海上空で消息を絶ったクアラルンプール発北京行きのマレーシア航空ボーイング777型機(MH370便。乗客乗員239人)は、マレーシア政府が24日、インド洋南部に墜落したとの見解を示した。MH370機にいったい何が起きたのか。「テロ」や「ハイジャック」の可能性が取り沙汰される中、最近メディアや航空専門家の間で盛んに語られ始めているのが、機がパイロットらの手を離れて自動操縦で飛び続けた末、燃料切れで墜落したとする「事故説」だ。
MH370機がテロやハイジャックに巻き込まれたのではないかとの見方が急速に強まったのは、マレーシア政府幹部が3月15日の記者会見で、同機の位置や機体情報を発信するトランスポンダやエーカース(ACARS)が何者かによって「意図的に切断された」と明らかにしたためだ。
こうした発信器を遮断するには高い専門知識が必要とされる。また、マレーシア政府は、同機が機長または副操縦士の手で飛行コースを大きく西に変更させた可能性が高いと指摘した。
民間の人工衛星が拾った、同機から自動発信された信号情報から、同機は南シナ海上空を絶ってから7時間近く飛び続けていたことが判明。同情報を元に、捜索範囲は「タイ北部からカザフスタン、トルクメニスタン国境地帯」の北方ルートと、「インドネシアからインド洋南部」の南方ルートの広大なエリアに拡大した。
ここで、多くの「テロ問題専門家」が注目したのが、捜索範囲にパキスタンやアフガニスタンも含まれていたことだ。
不明機が北方に進んだ場合に上空を通過した可能性がある中国やパキスタンなど8カ国は、レーダー情報などを解析した結果、不明機に該当する飛行物体の情報は確認されなかったとマレーシア政府に回答した。
しかし、一部の欧米メディアは、不明機は機長の手で北西に向かい、現在はアフガニスタンまたはパキスタンに着陸しているとの説を積極的に紹介。機長がイスラム原理主義勢力タリバンなどの過激派と気脈を通じ、自ら機をハイジャックしたというわけだ。
航空史をさかのぼると、1999年12月、カトマンズ発デリー行きのインディアン航空機がパキスタンに拠点を置く「ハルカトゥル・ムジャヒディン」とみられるイスラム武装勢力に乗っ取られ、アフガニスタン南部のカンダハルに強制着陸させられる事件が起きている。
だが今回の場合、不明機がアフガン、パキスタン方面を飛んだ情報がないという事実はどうなるのか。
ある航空専門家はネット上で、不明機がパキスタンに向かう別の旅客機のすぐ後方に機体をぴったりと寄せ、レーダーによる探知を免れたと主張するが、そもそも当該の旅客機どうやって空中で発見するのかなど、ネット上で賛否両論の議論がわき起こった。
「南アジア着陸説」は、マレーシア政府が推定墜落地点をインド洋南部と発表したことから沈静化した。もちろん、機長または他の誰かが機体を無理やりインド洋の真ん中に飛ばし、「自爆」した可能性もある。あるいはどこかの陸地に着陸しようとしたものの、燃料切れになったのかもしれない。
だが、ここへきて「より合理的な説明」として急浮上しているのが、機体の火災や機内の急激な気圧低下などで乗員・乗客が意識不明となりながら、機体は勝手に飛行を続け、最終的に墜落するという「ゴースト・フライト」と呼ばれる現象が起きた可能性だ。
元パイロットのクリス・グッドフェローと名乗る人物が3月20日頃、ソーシャル・メディア上で次のような説を発表した。
「不明機は前輪のタイヤが離陸時にバーストしたせいで格納後に燃え始め、煙が操縦席に充満。機長はただちに機を最寄りの空港に緊急着陸させるため、機を大きく西方に変針させた。変針された航路の直線上には、大型旅客機が着陸できる長さの滑走路を備えた、マレー半島のプラウ・ランカウィ空港がある。しかし、機長らは煙に巻かれ、死亡したか意識を失った」
この説でいけば、機長はハイジャック犯どころか、身をていして機を救おうとした英雄ということになる。
マレーシア政府によると、機は変針後、実用制限高度を超えて急上昇した後、急降下したとされる。事実とすれば、操縦席の異変で機体は制御不能となり、急上昇で機内の気圧が低下し、乗客らも意識不明となった可能性が高い。
過去の事例では2005年8月、キプロスのヘリオス航空のボーイング737型機が、与圧システムの異常で操縦士が酸素欠乏により意識不明となり、約2時間飛び続けた後に燃料切れでギリシャの山中に墜落。乗客乗員121人は全員死亡した。
また、1999年には米プロゴルファーのペイン・スチュワート氏ら6人が乗った自家用ジェット機がフロリダ州オーランドからテキサス州ダラスに向かおうとしたところ、上空で機内の気圧が急激に低下。パイロットらは意識を失ったものの、機体は自動操縦で4時間以上も飛行し、本来の目的地から北に2000キロ以上も離れたサウスダコタ州に墜落した。
MH370機も、もしかすると与圧システム異常を起こした可能性もある。二度とこのような惨劇を繰り返さないためにも、飛行データや操縦室の会話などが記録されているブラックボックスが一日も早く回収され、原因が特定されることを望みたい。(黒瀬悦成)