
「子どもたちに平和を引き継いでいくのに最もふさわしい教科書を合法的に選んだ。教師たちが不適切だと評価した育鵬社の教科書を採択するよう、政府が圧力をかけるなんて本当に理解できない」
日本の最南端に位置する離島の町・沖縄県八重山郡竹富町の慶田盛安三教育長(72)=写真=は安倍政権の波状攻勢にもかかわらず、極右傾向のある育鵬社の公民教科書採択拒否で先頭に立っている。自治体の上位の採択地区(教科用図書八重山採択地区協議会)は2012年以降に育鵬社の教科書を採択したが、慶田盛教育長は中立的な立場を取る東京書籍の教科書を今年も独自に採用した。日本政府と極右派は「違法行為を主導している」「国の利益を無視する売国奴」との批判を浴びせている。
慶田盛教育長は13日の電話インタビューで「育鵬社の教科書は考えられない内容が含まれている」「(日本軍により住民が犠牲になった)沖縄の悲しい歴史を考えると、平和を考える教育をしなければならない」と語った。
育鵬社の教科書は帝国主義の侵略を美化する歪曲(わいきょく)教科書だ。この教科書は日本の侵略戦争について「東南アジアとインドの人々に独立の希望を抱かせた」と、また当時の日本軍の沖縄住民集団自決強要については「米軍の猛攻で隠れる場所を失った住民が自決の道を選んだ」などと記述している。育鵬社の教科書は、安倍首相の教育ブレーン八木秀次氏が執筆に加わっているが、八木氏は日本政府の教育制度の改編を主導する「教育再生実行会議」の委員でもある。
安倍政権は「独自の教科書選択」を違法として竹富町に「是正」を要求、このほど竹富町を狙って、自治体の上位の採択地区の教科書選択に義務的に従うように法を改正した。
これに対し、慶田盛教育長は「むしろ政府の方が違法だ。法律に基づいて独自の教科書採択委員会を作る」と宣言した。安倍政権が総攻勢をかけているのは、竹富町の抵抗が育鵬社の教科書普及において障害となることを懸念しているためだ。竹富町で生まれた慶田盛教育長は元教育行政公務員で、安倍政権の攻勢に対し法の網の目をかいくぐるなど賢い対応で「教科書戦争」に勝利したと評価されている。
-なぜ育鵬社の教科書を拒否したのか。
「育鵬社の教科書ではわれわれが望む平和、基本的人権の尊重、弱者が安心して暮らせる社会について教えられないと判断した。考えられないような(でたらめな)教科書だ。沖縄の戦争被害、米軍基地問題はもちろん、原発事故の問題もきちんと取り上げておらず、自衛隊の役割を過度に強調している。育鵬社は教師たちの評価でも点数が最も低かった。私の考えでは沖縄の住民たちが犠牲になった戦争は今も終わっていない。(最近の雰囲気を見ると)軍靴の音が聞こえてくるような感じがする」
-沖縄の住民たちの戦争体験は教科書選択にも影響を与えた?
「私は戦争当時3-4歳だったが、今も(当時の惨状は)鮮明に記憶に残っている。日本軍は『米軍の上陸に備える』と言って住民たちをジャングルに強制疎開させた。劣悪な疎開生活のため伝染病がまん延、子どもたちが多数死に、親族も犠牲になった。この地域の悲しい歴史を子どもたちにきちんと教えなければならない。平和を考える教科書と教育が必要だ」
戦争中は竹富島とその周辺地域だけで3000人を超える住民が犠牲になった。
-教科用図書八重山採択地区協議会が育鵬社の教科書を選んだ理由は?
「本当に理解できない。政府の意図を反映させたという気がする」
-日本政府は「八重山採択地区協議会が選んだ教科書を採択しないのは違法だ」という見解を持っている。
「私たちはむしろ法律を忠実に守っている。違法なのは文部科学省の方だ。従来の『教科書無償措置法』は所属教育委員会が協議し、教科書を一本化するよう規定している。教師たちは最も望ましいと評価した東京書籍の教科書採択を主張したが、八重山採択地区協議会は協議することもなく一方的に育鵬社の教科書採択を決定した。採択の過程自体が違法なのにもかかわらず、政府は竹富町だけを教科書無償化の対象から外した。これは明らかに違法だ」
竹富町は無償化の対象から除外されたため、住民の寄付により独自採択した教科書を購入、無料で子どもたちに配布した。
-独自に教科書採択委員会を結成するということだが、日本政府はそれにも反対している。
「政府が改正した法律には、採択地区の構成単位を従来の『市郡』から『市町村』に細分化できる、という内容がある。われわれはこの法律に基づいて独自の委員会を結成する。これに対する最終権限は沖縄県教育委員会が持っており、委員会も肯定的だ。これに反対するということは、政府が教科書採択に不当に介入するということだ。政府は子どもたちの立場になって合理的に判断してほしい。われわれが採用した東京書籍の教科書は全国の60%の学校が使用している」
-住民たちの反応はどうか。
「教科書の問題は一人で決めたことではない。教育委員、教師、住民たちは皆賛成し、励ましてくれている」
-安倍首相は戦争を禁じた憲法第9条の改正を推進している。
「憲法第9条があるから日本は戦後70年近くにわたり戦争に巻き込まれることがなかった。(この間に)参戦して死んだ兵士は一人もいない。日本が平和国家の道を歩んでこられたのは憲法第9条のおかげだ。憲法第9条を維持し、子どもたちに平和を引き継がせたい」