復縁を拒まれ、ストーカーと化した男は元交際相手の遺体を野ざらしの川縁に捨てる凶行に及んだ-。東京都日野市の浅川河川敷で、会社員の堀田さとみさん(24)の遺体が見つかり、死体遺棄容疑で22日、飲食店従業員の安保克(あんぼまさる)容疑者(24)が警視庁捜査1課に逮捕された。「復縁を持ちかけて拒否され、首を絞めて殺した」と殺害への関与も認めている安保容疑者。事件の約1カ月前、自らの暴力が原因で、高校時代から交際を続けていた堀田さんに別れを切り出されたという男のゆがんだ愛情とは-。(宇都宮想)
■「娘が帰らない」と110番…3日後に発見
東京都西部の多摩丘陵の一角、日野市南部を東西に流れる浅川の河川敷。捜査1課や日野署の捜査員らは22日、青々と生い茂る草木をかき分けながら、険しい顔つきで堀田さんを捜し回っていた。午後2時半ごろ、住宅街との境目にある側溝に目をこらしていた捜査員の足が止まった。
「いたぞ」
側溝を覆うように、不自然に集められた草木の隙間から人体のようなものが見えた。草木の下で横たわっていたのはTシャツがめくれ、太ももに切り傷がある堀田さんの変わり果てた姿だった。そばには靴が脱ぎ捨てられていた。
捜査1課と日野署は19日午後3時ごろ、堀田さんの同居する父親から「娘が帰ってこない」と110番通報があったのを受け、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いとみて捜査を始めていた。
堀田さんのスマートフォン(高機能携帯電話)から18日午前10時ごろ、母親に無料通話アプリ「LINE(ライン)」で、「夜には帰る」と連絡があったまま帰宅せず、音信不通になっていたからだ。
ほどなく、堀田さんと5月ごろまで交際し、現場から約200メートルの集合住宅に住んでいた安保容疑者が浮上した。
安保容疑者は当初、「堀田さんは18日午前9時ごろに家に来たが、すぐに帰った」と事件とは無関係を装っていたが、捜査1課から遺体が発見されたことを突きつけられた途端、一転して関与を認め、死体遺棄容疑で逮捕された。
■1年前から暴力…自宅周辺で待ち伏せも
遺体発見の数日前、安保容疑者の自宅周辺の住民らは、すでに異変に気付いていた。安保容疑者宅から「ドスン、ドスン」という大きな音がするのを聞いたほか、安保容疑者と似た男がキャスター付きのケースを引きずって河川敷に向かうのを目撃していた。
安保容疑者宅のベランダから遺体を運搬するのに使ったとみられるケースが見つかっており、安保容疑者は「18日に自宅で首を絞めて殺した。ケースは殺害後に購入した」と話しているという。
捜査1課は殺人容疑での立件を視野に裏付けを進めている。ただ、安保容疑者宅には堀田さんの血痕が残されていたものの、発見された時点で死後3~4日たっており、司法解剖では首を絞めた跡などは見当たらず、死因も特定できなかったという。
高校時代から約6年間交際していたという堀田さんと安保容疑者が別れるきっかけは、安保容疑者の暴力だった。関係者によると、1年ほど前から安保容疑者が暴力を振るうようになり、脅迫する内容のメールが送りつけられることもあった。
耐えかねた堀田さんは今年5月ごろに別れ話を切り出したが、安保容疑者は応じず、堀田さんを自宅周辺で待ち伏せをするなどのストーカー行為をするようになった。堀田さんには新しい恋人ができたが、その男性と一緒に歩いているところを見かけると、車で幅寄せするなどの嫌がらせをしてきたという。
■「家族に危害あるかも」…警察に相談せず
最悪の事態は避けられなかったのか。警視庁へのストーカー相談はなかったものの、身の危険を感じた堀田さんは殺害されたとみられる2日前の6月16日、勤務先の上司に被害を打ち明けていた。
上司は「(ストーカー行為が)ひどくなるようなら警察に相談したほうがいい」と助言したが、堀田さんは「警察に行ったら家族にまで危害を加えられるかもしれない」と首を縦に振らなかったという。
捜査関係者によると、堀田さんは18日午前8時半ごろ、現場から北に約1キロ離れたJR中央線豊田駅近くにいるのが周辺の防犯カメラに写っていた。そのまま安保容疑者宅に向かい、ストーカー行為を止めるように訴え、悲劇に見舞われたとみられる。
自宅近くの住民にはあいさつを欠かさず、いつも笑顔で明るい様子だったという堀田さん。顔見知りの主婦はこう言って早すぎる死を悼んだ。
「あんな男に出会っていなければ…。周囲が助けてあげられていれば…。いろいろな『たられば』があったら死なずに済んだかと思うと、かわいそうでたまらない」