
弘法大師・空海が現在の和歌山県高野町に密教の道場を開いて来年で1200年になるのに合わせ、高野山で一風変わったプロジェクトが進んでいる。和歌山の食などを「高野山ブランド」として全国に発信する取り組みだ。高野山と業者などが提携して商品化や販売を進め、近隣市町も地元の食を「高野」の名を使ってアピール。おなじみの高野豆腐やごま豆腐スイーツ、ミカンとハッサクのジュースなどに加え、「おっぱい弁当」なるものも登場した。商品はバラエティーに富むが、いずれも良い物を手間ひま惜しまず提供することを心掛けた。いわば“おもてなしの心”のブランド化だ。(成瀬欣央)
■高野山「お墨付き」
「高野山のことを“たかのやま”と呼ばれたことがあります。高野山が三重や奈良にあると思っている人もいる。ブランドを通じ、和歌山と高野山がともに全国で認知されることを願っています」
高野山真言宗の添田隆昭宗務総長は昨年10月、地域ブランド「高野山からの贈りもの」創設の記者会見で、ユーモアを交えて語った。
ブランドは、総本山・金剛峯寺と和歌山の紀陽銀行が連携して創設した。空海の教え「生きとし生けるものは共に助け合うことが大切」という意味の「共利群生(きょうりぐんじょう)」をコンセプトに、独自の基準で選んだ県内産品を「高野山からの贈りもの」と認定し、販売していく。同行の片山博臣頭取は「高野山ブランドを生かして地域経済活性化につなげたい」と期待を寄せる。
「贈り物」のラインアップは「食」が中心。高野山からは100%国産大豆を使い、京都の料亭にしか卸さない「高野豆腐」、昔ながらの伝統と製法を受け継いだ老舗ごま豆腐店が新たに開発した「ごま豆腐スイーツ」がエントリーした。
ミカンで知られる有田市からは、温州ミカンとハッサクを6対4で絶妙にブレンドし、どこにもない大人の味わいを作り上げたジュース。みなべ町からは、A級品の紀州南高梅だけを使用し、本みりんや蜂蜜で2度漬けして長期間熟成させた梅干しなど、和歌山が誇る特産品がひと手間ふた手間かけた商品として名を連ねている。
■高品質を保証
「高野山の贈りもの」のモットーは、生産者と一から進める商品開発だ。その狙いはブランドロゴに頼るのではなく、高付加価値をつけること。第1弾として発表された11社16商品のうち13商品は新規商品で、残り3商品もアレンジを加え高品質のものになっている。
今年4月の時点で、これらの商品は高野山関連のイベントや各事業者による販売にとどまっているが、将来は全国の百貨店やインターネット販売にも乗り出す方針。かつて徳川家に献上された銘茶「川添茶」とほうじ茶のケーキのセットがブランドに選ばれた製パン・菓子業「カワ」(広川町)は「高野山ブランドが使えることへの期待は大きい。全国的な販路を考えてもらえるのもありがたい」と手応えを感じている。
■「また食べたい」お弁当
高野山の県内近隣市町も、「高野」の看板を前面に、観光客らに地元の食をアピールする。
高野山の北に位置する橋本市など1市3町の食品衛生協会や商工団体、観光協会などは実行委を結成し、昨年12月に「高野山・伊都のおもてなし弁当コンテスト」を開いて10種類の弁当を選出した。
観光で訪れた人が「次もこれを食べたい」と思える印象に残る弁当を提供するのが狙いで、地元の事業者らは工夫を凝らした弁当を出品した。
高野山への表参道に1町(約109メートル)ごとに建てられている石の卒塔婆「町石」の形を模して、おにぎりなどを並べた「町石弁当」▽高野豆腐やごま豆腐、柿の葉ずしなど地元の名物を盛り込んだ「伊都・高野やっしょ弁当」▽丸いおにぎりの真ん中に梅干しをのせて2つ並べた「おっぱい弁当」-など、ちょっとユニークなものも。
審査に当たった伝承料理研究家、奥村彪生さんは「楽しく、おいしくできていました。地元の食材を使うのが大事ですね」と講評した。
■スイーツブランドも好評
これらに先だち平成21年にスタートしたのが、スイーツの地域ブランド「高野七口・高野スイーツ」だ。地元商工団体が中心となり、特産の柿などを生かしたレシピを全国から公募し、選ばれたフィナンシェやバターケーキのレシピを地元のケーキ店などが商品化した。
同年9月、東京で写経や瞑想などを体験できるイベント「高野山カフェ」(金剛峯寺、南海電鉄主催)で提供し、好評だった。
4品でスタートしたブランドは認定制度に切り替え、現在は34品に。「高野せんべ」「高野やきもち」など派生商品もできた。
「高野七口」とは高野山への7つの参道の入り口のこと。参詣者をもてなす宿場や茶屋が発達したことにあやかり、ブランド名にしたという。同ブランドの担当者は「『高野』の名前は消費者から信頼される大きなもの」と話す。
高野山真言宗の僧侶で、金剛峯寺の関連会社「有限会社高野」の社長を務める山口文章さんは「高野山の贈りもの」について、「高野山として県の活性化に貢献できるのはすばらしいが、高野山の名前だけで売ってはいけない。良い物を提供しようという心が伴っていることが大切です」と強調する。
そのうえで高野山ブランドの食の魅力について、「高野山の精進料理は修行僧の食べ物であり、寺院の振る舞い料理。肉や魚などを使わずに、どうすればおいしく見栄えのいいものができるか、さまざまな工夫が凝らされている。その精神を感じてほしい」と話している。