
若き天才ピアニストが、4000人もの聴衆が詰めかけるコンサートホールで、亡くなった恩師の作曲したウルトラ超難解で、自らもかつての演奏で音を外してしまった失敗がトラウマとなっているピアノ曲を1音もミスることなく弾き終えなければ、おそろしいことが起きる-という設定です。8日公開となったエウヘニオ・ミラ監督作品「グランドピアノ 狙われた黒鍵」ですね。ミラ監督はスペインの音楽家で作曲家でもあり、本作品で演奏されたウルトラ超難解のピアノ曲「ラ・シンケッテ」の作曲も手がけています。
その日は、トラウマを抱えて長らくステージに上っていなかったピアニストの、5年ぶりの復帰コンサートになりました。ステージにはすでに、この日の演奏のために特別手配されたベーゼンドルファーのインペリアル「モデル290」が運び込まれています。1828年に音楽の都ウィーンで創業した伝統あるピアノブランドの最上級モデルで、通常の88鍵の下にさらに9鍵の低音部を拡張し、合わせて97鍵になっているのが特長です。その部分だけは誤演奏を防ぐために、すべての鍵盤が黒く塗られているのです。
失っていた自信をこの日の演奏で取り戻さなければならないと、ピアニストは意を決してステージに上り、ピアノの前に座ります。やがて始まった演奏でしたが、めくっていった譜面の途中に赤い文字で書いてある警告の言葉「1音でも間違えたら、おまえを殺す」「助けを呼んだら、眉間を撃ち抜く」を目にして、ピアニストは驚愕します。だれが、何の目的で、そんなまねをするのでしょうか? ポーカーフェースで見事な演奏を披露しながらも、ピアニストはじりじりと迫ってくる恐怖を相手に、目に見えない孤独の闘いを強いられます。クライマックスが待ちきれない、極上のサスペンスに仕上がっています。(宝田茂樹)