
映画館だけでなく、沖縄のさまざまな文化の発信基地としても知られる那覇市の桜坂劇場。4年前からはやちむん(焼き物)や琉球ガラスなど、沖縄の逸品をそろえたセレクトショップ「ふくら舎」を併設しているが、その卸事業の拠点となる東京分室が6月6日、東京都文京区にオープンした。7日にはお披露目パーティーが開かれ、桜坂劇場を運営する中江裕司監督(53)も来場。「沖縄のよさを本土の人にも伝えていきたい」と意気込みを語った。(藤井克郎)
地下鉄千代田線の千駄木駅から歩いて2分ほど。下町風情が色濃く残る路地裏のビルの4階に、「ふくら舎・東京分室」はあった。畳敷きの部屋には、大皿、小皿、茶碗(ちゃわん)に花瓶、さらにはシーサーの置物に厨子甕(ずしがめ)(骨壺(こつつぼ))と、大小さまざまなやちむんや色も形も個性的な琉球ガラスの数々が所狭しと並べてあった。
「これらの焼き物はすべて登り窯の工房で焼かれたもので、益子だったら1万円を超すような皿が、やちむんだと1500円くらいで買える。ただ沖縄の焼き物の手法は日本一多くて、一枚一枚焼きが違う。写真を見せて、これを仕入れたい、ということができないので、ここのショールームでデパートのバイヤーや小売店の人に見てもらおうというわけです」と、中江監督は東京分室をオープンさせた理由を語る。
「ナビィの恋」や「ホテル・ハイビスカス」など沖縄を舞台にした映画で知られる中江監督が、那覇市の牧志公設市場近くに桜坂劇場を開設したのは平成17年のことだ。3つのスクリーンで年間300本もの映画を上映しているほか、ライブコンサートや市民講座、さらにはロビーにはカフェも設置するなど、一大文化拠点となっている。
ここの2階に4年前、沖縄のいいものを発信しようと「ふくら舎」が併設された。やちむんやガラス、民具などを販売しているが、3年前からは卸事業もスタート。中江監督が自ら沖縄本島各地の工房を訪ね、優れた製品を仕入れて仲介している。現在はやちむんは20工房、ガラスは5工房と取引をしているという。
「もともと沖縄で作られたものが好きだったが、土産物店に行くと、ちゃらちゃらした土産物の中に埋もれていた。手作りの本当にいいものを集めたお店をやりたいと思い、工房を訪ねて沖縄の魂が込められたこれぞというものを集めたんです」と説明する。
中江監督が「たとえばこれ」と目を輝かせて見せてくれたのが、あんびんと呼ばれる器だ。急須の一種だが、つるの部分も焼き物でできていて、窯で焼いた後の形を計算して作らなければならず、とても難しい技術がいるという。「この模様は緑と臙脂(えんじ)がまだらになっているが、これは同じ釉薬(ゆうやく)なんです。焼くときに酸化すると緑、還元すると臙脂になる。そのときの炎の具合によるので、二度と同じ発色はできません」と説明にも力が入る。
さらにやちむんの王様とも言われるのが厨子甕だ。本土の骨壺がどれも似たような形で、魂を閉じ込めているのに対し、厨子甕は立派な家をかたどった個性豊かなもので、しかも魂が自由に出入りできるように穴が開いている。ろくろで引くことができず、サイズも大きいため、これに取りかかるとほかの作業はストップしてしまう。「難しく、経済効果も悪い。でも最後はこれを作りたいという。沖縄の作家は作らないといけないものなんです」
中江監督によると、こうした沖縄の工芸品は映画作りに似ているという。「僕はフィルム育ちで、フィルムは最後は偶然性に左右される。焼き物もどれも一生懸命作っているのに最後は違ってくる。自分で全部できるとは思うなよ、と言われているようで、すべてコントロールできるものより僕は好きですね。ベストは尽くすけど、工業製品とは違うからうまくいくときもあれば、いかないときもある。人生すべてそうだと思うんです」
この日のお披露目パーティーには、中江監督の「ホテル・ハイビスカス」でデビューし、NHK朝ドラの「あまちゃん」にも出演した女優の蔵下穂波(20)も駆けつけて、琉球舞踊や沖縄民謡を披露した。やちむんのお皿に盛られた沖縄料理に舌鼓を打ち、琉球ガラスのコップでオリオンビールを飲みながら、穂波ちゃんの踊りに酔いしれる。「沖縄の多様性を多くの人に知ってもらいたい」という中江監督の声が耳に残った。